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名古屋地方裁判所豊橋支部 昭和31年(ヒ)3号 決定

申請人 朱正徳 外四名

主文

本店豊橋市鍵田町三十四番地株式会社共和交易洋行発起人の作成した定款の内現物出資についての規定は不当と認めるので同会社発起人

豊橋市花田町字狭間十八番地

中村麻治郎

同 市岩田町字北の坪二十六番地

村田義直

同 市小池町六十八番地

福井道二

同 市東田町字五反畑二番地の五

古林元意

豊橋市鍵田町三十四番地

愛知県漁網協同組合

代表者理事 渡辺政直

愛知県宝飯郡形原町大字形原字西欠の上十五番地

三浦享助

豊橋市岩田町字仲の坪九十七番地

安藤保

同 市向山西町九十九番地

朱正徳

に対し左記のとおり定款変更を通告する。

定款第三十六条中「但次条に掲ぐる株式を包含する」の十四字を削除、

第三十七条全文削除、

理由

申請代理人佐藤一平提出の定款謄本によれば株式会社共和洋行(以下単に会社と略称する)は海外貿易並に物品売買業を営むことを目的として主文記載の発起人等により定款を作成し昭和三十一年六月八日名古屋法務局所属公証人小木曾丈三郎の認証を受けたものであるが右定款には「第八条当会社設立に際して発行する株式の総数並に額面、無額面の別及び数、一株の金額及び発行価額は左の如し、発行する株式総数一万株、全部額面株、一株の金額五百円、発行価格五百円」「第三十六条会社設立の際発起人の引受くべき株数及びその氏名は左の通りである但次条に掲ぐる株式を包含する(中略)五、〇〇〇株朱正徳」「第三十七条会社設立の際現物を以て出資の目的となす者の氏名其の現物の種類、価格及之に対して与うる株式の数は左の通りである。発起人朱正徳、朝鮮貿易会社と締結された年間五億円の受註契約及びこれが見返りたる輸入権、此の価格金二百五十万円、之れに対して与える株式の数五千株」の各規定が存することが認められる。

検査役両名が共同調査の上提出した報告書によれば検査役の意見は右現物出資の目的たる財産権を否定し従つて発起人朱正徳の引受けたる五、〇〇〇株については現金をもつて払込をなさしむるため定款を変更するを相当と思料するというのであつてその主張する要旨は発起人朱正徳は従来定款第三十七条所定の貿易上の利権を獲得するため日朝貿易会社或は在日朝鮮人貿易協会役員として之等諸団体に働きかけ北鮮関係方面にも一定のつながりを作り将来可能性ある地位を形成しつつあることは認められるも所謂朝鮮貿易会社と締結された年間五億円の契約は他の用務のため北鮮に赴いた者の私的立場において取交された単なる仮契約の一部にして唯可能の時機に至ればという将来の可能性が推測し得られる程度の所謂ワクが予定されるというだけであつて何等日本国と朝鮮民主々義人民共和国の公的裏付けなく且右会社の存在も不明で代表者金応律も正式の代表権の有無判明せず又社長は誰か、正式に設立された法人であるか疑問があり尚宮腰喜助が株式会社千代田商会、双葉興業株式会社、太陽商工株式会社外数社代表として契約を締結したその権利の一部が本件現物出資の目的であると称するが右三会社の存在及び外数社とは如何なる会社か、宮腰喜助はその代表権があるかも不明である。且又貿易については輸出貿易管理令によつて通商産業大臣の書面による承認を受けた後はじめてこれを正式に契約し輸出することができるのであるがその許可を受けておらぬものである。しかも右契約による輸出予定物品の中には輸出禁止品目も含まれている疑がある。従つて出資の目的たる財産権は法律上成立せず又これに対し価額二百五十万円の株式を割当る価格の基準は不明であつて算定し難い。すなわちこの出資を認め朱正徳に五、〇〇〇株を与えることは不当である。殊に法律上の裏付のない利権であるから現物出資の給付は未だ行われておらぬものと認める他ないというにある。

よつて審按するに朝鮮民主主義人民共和国が北朝鮮地域に成立していることは公知の事実であるが同国と日本国とは国際法上外交関係も通商関係もなく且同国は共産圏国家群に属する関係上輸出貿易管理令の適用の面よりするも所謂自由貿易を許されておらぬところである。然るに会社の発起人等は発起人の一人である朱正徳が朝鮮民主々義人民共和国平壤市にある朝鮮貿易会社と日本国際貿易専門委員会に属する株式会社千代田商会他数社の代表者宮腰喜助との間に成立した仮契約書による年間五億円の貿易上の特殊利権を有するので右特権を価格金二百五十万円と算定しこれを現物出資として会社の設立の際発行する株式の二分の一に当る五千株を与えることを協定しこれを定款に規定したものであり且本件申請書添付の朱正徳の株式引受証謄本によれば同人はこの貿易上の特権を現物出資として五千株を引受けたことが明らかである。しかしながら申請代理人提出の右仮契約書写並に検査役の報告書添付の調査資料書類を綜合しても右現物出資の目的である貿易上の特権と称するものは法律上財産権と解し難く前記検査役の報告要旨は大体において採用すべきものと認める。従つて会社の定款中現物出資に関する部分は不当として全部削除し発起人朱正徳に対してその引受株数に相当する現金払込をなさしむべきものとし会社の各発起人に対しこれを通告することとする。(もつとも朱正徳において現金払込に不服であればその株式の引受の全部又は一部を取消し得べくこの場合発起人は主文表示の削除部分の他定款第八条等を変更し設立の際発行する株式数を減少する方法により会社の設立を続行することもできる)

なお検査役の報告書中設立費用の支出を不当とする部分については同報告書に対する申請人等の陳述に鑑み当裁判所において定款第三十八条の変更を通告するまでの必要はないものと認定する。よつて商法第百七十三条第二項、非訟事件手続法第百二十九条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 片桐孝之助 栗山忍 森綱郎)

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